雲ひとつ無い夜空に輝く星たち。
 一つ一つの星が自分を主張するかの様に瞬いている。
 そんな夜空の下、とある家の庭で小さな光のショーが行われていた。

 シャーッ
 パチパチ

縁側に座っている浴衣の女性と、花火を握って座っている女性は綺麗な光に吸い寄せられていた。
 赤、青、黄、緑、ピンク……様々な色が、それぞれの軌跡を描き消えていく。
「綺麗ね……」
 ふ、と縁側に座っている女性――美坂香里――が呟いた。
 その言葉に、花火を握りながら楽しそうな表情をした女性――水瀬名雪――は香里の方を向く。
「そうかな」
「花火がね」
「う〜」
 香里は何を勘違いしているのか、という視線を名雪に投げかけた。
「ここはお世辞でも『そうね』とか言うものだよ〜」
「私は正直な気持ちで生きていたいの」
「う〜、極悪だよ」
 花火の光に照らされた、名雪の膨れた表情は思わず香里の笑いを誘った。
「う〜」
 それを見て余計に膨れる名雪。
「……そうだ」
 思いついた様子でそう言うと、香里は近くにある巾着袋から携帯を取り出した
「名雪ー」
「ん?」
 パシャッ
「わっ、香里ー」
 名雪はいきなり写真を撮られ、あたふたしながら片手を顔の前でパタパタ振る。
「ん、綺麗ね」
 香里は自分の携帯を見ながら悦に入った様子を見せた。
「そ、そう?」
「花火が」
「……う〜」
 本日2度目の裏切り(少なくとも名雪からは)に、名雪はぷいっと顔を逸らした。
「香里のいじわる」

 ティロリン

 名雪の文句と共に、香里の携帯から何かの効果音が流れた。
 名雪にはその音に聞き覚えがある。
「香里、まさか……」
「ん。相沢君に送っちゃった」
「何するんだお〜」
 星一面の空に、緊迫感の無い叫びが木霊した。


 所変わってここはとある株式会社のビルの一室。
 本来この時間なら社員は全員帰っているため真っ暗である。
 しかし、この部屋は2つの光源によって心なしか明るい。
「くそ、何でこんなに量があるんだ……」
 その光源のひとつは、相沢祐一の机のスタンドライトから。
「文句言うな。俺だってそういいたいんだ……」
 もうひとつは、北川潤の机からだった。
 二人は、今日突然に渡された膨大な量の仕事を済ますため、残業をしていた。
「うぅ……」
「くぅ……」
 しかし、残業してから数時間。彼らの疲れもピークに達してきた頃。

 ♪ティーラティラ……

 祐一の鞄から突如軽やかなメロディが流れ始めた。
「ん……? なんだ?」
 祐一はダルそうに鞄を持ち上げると、その中から自分の携帯を取り出した。
「お、香里からだ」
「美坂から?」
 祐一の言葉に反応する北川。
 カチ、カチと携帯のボタンを押す音が2人しか居ない部屋に響く。
「おぉ……」
 祐一が漏らした感嘆の声に、北川は席を立ち祐一に近づいた。
「何だ?」
「これ」
 そういって祐一が差し出してきたのは、先ほど香里が携帯で撮った写真である。
「綺麗だな……」
「だな……」

 間。

「「花火が」」

 祐一は今回のそのままの感想を携帯に打ち込んでいた。
 本日2度目の叫びが再び木霊したのは、言うまでもない。


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